少し前のことですが、5月に御園座で公演された、スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』そして、渋谷のシアターコクーンで上演された『切られ与三(きられよさ)』の二作品を見ました。前回の記事でスーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』については触れましたので、今回は本題に入る前に少し『コクーン歌舞伎『切られ与三』について触れてみようと思います。
そもそもコクーン歌舞伎とは何かということなのですが、私もはじめての見ましたのでもしかすると間違いがあるかもしれませんが、演劇やコンサート、ダンスなどコンテンポラリーな舞台表現を中心としたシアターコクーンで上演されることを前提で演出された歌舞伎で、今回は江戸後期に初演された『切られ与三』が現代的な手法で演出されています。
渋谷のシアターコクーンは客席での撮影禁止ということでしたので、劇場内の写真が掲載できませんが、まず、劇場に入ってみると歌舞伎の劇場などと比べて客席の横幅が狭く、花道がないことに気づきます。花道の代わりに通路を使っての演出や劇場の横幅が狭いことで広がる舞台との一体感、またウッドベースとピアノ、ドラムによるジャズのフレーズが古典とは違う、現代的な歌舞伎の面白さを引き立ててくれます。スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』のダイナミックなショー的な雰囲気とも違い、小劇場の現代劇的なライブ感が魅力のコクーン歌舞伎でした。『ワンピース』『切られ与三』ともに古典歌舞伎に比べて着物の方も少なめでしたが、素敵な着物姿の方がみえてとても参考になりました。
さて本題に入ります。今回は、タンスの中の着物を中心にしてどのようなコーディネイトができるか実際に見ていきたいと思います。もう一度おさらいですが、歌舞伎に適した着物とはどんなものかといいますと、実はドレスコードはないので、どんなものでもよいというのは前回も書いた通りです。人それぞれ、歌舞伎に向いている着物というものの感覚が違います。案の定、知人とどの着物が歌舞伎向きかという話をすると、『ああでもない。こうでもない。』と議論が尽きません。知人に言わせると、せっかくの観劇なのだから思いっきりいいものを着ていって、みんなに注目された方がいいというのです。確かに、その考え方も一つですが、これは歌舞伎の場での着物というより、そもそも着物で出かけるときのスタンスの違いがあるかもしれません。私の考える通の着物姿というのは、あまり目立たず自然体、それでいて上質なものを見にまとっている方が素敵だなと思うので、後ほど掲載するコーディネイト例はかわちや好みということでご参考にしてください。
実際 タンスの中を探してみますと色々な着物が出てきます。これは実際に我が家のタンスの中にあった着物を出してみました。もちろん、呉服屋の母が自分自身で後から作ったものではリアリティーがありませんので、古いタンスの中からあまり使われていないものや、祖母からもらったであろうものでタンスの中にしまいっぱなしのものを実例としてご紹介いたします。
出てきた十枚の着物を種類別に分けててみました。羽織が4枚(右下)留袖1枚(左下)
銘仙1枚(左上)紬2枚、お召1枚、小紋1枚(右上)が出てきました。このうち紬と小紋は十分歌舞伎の観劇に使えそうな着物でした。
まず、タンスの中に長年しまってあった着物は防虫剤のにおいやカビのにおいがついていて、そのまま着るのは少しためらわれます。ですから、出して少しの間は風を通して湿気とにおいを飛ばしておきましょう。場合によっては、丸洗いや染み抜きなど必要かもしれません。
左は小紋、右はお召し
左は絞りの紬、右は絣の紬
タンスに一緒にしまってあった帯は赤とオレンジの帯で今の時代では少し派手な印象です。そこで前回の記事でもまとめましたが、帯は新しいものを合わせていくと、手持ちのお着物も十分に使うことができます。
ピンク系の絣柄のお召しに紺の伊那紬の帯をコーディネイトしてみました。ピンクの地色は警戒されがちですが、年代幅も広く着て頂けそうな落ち着きのある色なので、着回しも良く重宝しそうな着物です。帯は紺地の伊那紬の帯コーディネイトすることで、ピンクの地色を落ち着きのある印象にまとめてくれます。
年代によっては少し落ち着きすぎの印象もあり、個人的には歌舞伎の観劇のコーディネイトはもう少し上品な華やかさを目指したいですが、少し強めのアイヌ刺繍の名古屋帯と合わせて印象深い帯周りに。通好みのコーディネイトです。
からし色の絞りの着尺に落ち着きある紅型の名古屋帯をコーディネイト。華やかでありながらも落ち着きのある上品さを演出する人間国宝玉那覇有公さんの紅型の名古屋帯の存在感。
シックな蝶の柄の小紋にシンプルに金彩と金糸のみで表現した、上品な塩瀬の名古屋帯。帯締めや帯揚げの小物使い次第で雰囲気をがらりと変えることができます。
まとめ
タンスの着物を使ってコーディネイトの実例を紹介させていただきました。いかがだったでしょうか。実際、コーディネイトが上手になる一番の方法は、実際に着物で出かけて色々な方の着姿を見るということです。何回も出かけて、自分の目指す着物姿を見つけてみて下さい。