都会は夏真っ盛りのうだるような暑さの中でも、さわやかな風が躍る7月中旬の能登。ある織物の工房を見せて頂くためにこの地を訪れました。
この地に古くから伝わる麻織物『能登上布』。
能登上布ときいて名前は知っていてもあまりピンとこない方も多いかもしれません。それもそのはず、昭和の初めには140軒以上あった織元も現在1軒のみ。我々でも、普段あまりお目にかかることの少ない麻織物です。その生産数は着尺で年間300反、帯150反と非常に少ないそうです。その工房が今回お邪魔した能登上布の織元『山崎麻織物工房』さん。ただ一軒の能登上布の織元です。
能登上布の起源
その起源は2000年も前、崇神天皇の皇女がこの地に滞在した際に野生の真麻で糸を作り、地元の婦女子に機織りを教えたことが能登上布の起源であると言われています。
麻とかかわりの深いこの地ですが、江戸時代初めまでは能登上布という名称は存在せず、近江上布の原紙を作っていたようです。その後、近江より職工を招き技術を学び、文政元年に『能登縮』が誕生し、その後麻織物の上質さが認められ、能登上布という名が定着します。
能登上布の特徴
能登上布の着尺は100番手という細い麻糸を使って織られ、しなやかでさらりとした肌触りと蝋引きしたような宮古上布にも似たテカリ感が印象的です。
能登上布の工程で最も特徴的なのは絣を作る際の櫛押し捺染、
ローラー捺染などの多彩な染め方で、もともと男物が中心で作られていた能登上布に様々な絣模様をもたらしました。
そして、もうひとつ印象的だったのは奥行きの短いこの織機。経糸を長い距離張るとテンションの誤差が大きくなり、絣がずれるため、それを極力少なくするための織機なのだそうです。そのため、杼を投げるたびの絣合わせも極力少なくなるよう、機にかける前の経糸も巻き取りも櫛を使って厳密に幅を整えておくそうです。
今回工房にお邪魔した際に素敵な着尺を分けて頂きました。
おそらくすべて十字に重なるはずの絣模様ですが、少しずつずれていて一つずつ違った表情を持っているのがとても愛らしいですね。これも手織りならではの味わいですね。
今回お世話になった、山崎さん。お母様も山崎さんもお二人ともすごく情熱的に能登上布のことを語られている姿が印象的でした。ものづくりをされている方に共通することですが、皆さんすごく情熱をもって織物に接しているんだなあと改めて実感した旅でした。
今回、お分け頂いた反物は改めてご紹介いたします。こうご期待!