上質なものは飽きが来ないといいますが、飽きがこないというその本当の意味は手に入れる時ではなく、長く使ってみてやっぱりいいものだなと実感した時しかわからないものです。それを証明するエピソードが先日ありましたのでご紹介いたします。
我が家に十数年前に妻が購入した赤系の八寸帯があります。もちろん年齢で一概には言えないのですが、
妻曰く、
年々赤系の帯などをコーディネイトすることに抵抗が出てくるというというのです。でもこの帯は、今の自分の年でも抵抗なく使える。やっぱり、いいものの方が長く使えるね。
と言うんです。
確かに、最近妻が新たに誂えるものには、赤系の帯はほとんどありません。ですから、通常では自身のコーディネイトには使わない色目なのですが、この帯を使っているときも、あるから無理して使っているという雰囲気ではなく、今の妻の年齢でもしっかりとコーディネイトの主役になりうる上質な存在感を持っています。その帯は当時まだ初心者だった妻にしては高価なものだったかもしれませんが、十数年たって、いい買い物と実感したわけです。
飽きがこないというのは、なかなか言葉で説明することができないあいまいな感覚ですが、手を抜かない丁寧な仕事と作り手の愛情は、確実にものに伝わっていくそんな気がします。
前置きが長くなりましたが、ご紹介したいのは美術工芸啓さんの名古屋帯。
三椏と微量のマニラ麻を加えた土佐和紙に薄く伸ばした漆を接着剤にして本金箔をはった箔と蚕が生きたままの状態で引く光沢のある糸が押し本漆本金箔 生引き糸と織り込まれたこの美術工芸啓さんの帯の最大の特徴でもあります。
奇をてらった派手さはないものの、素材にこだわったこの帯の上質さは手に取って触って頂ければ確実にお分かりいただけると思います。